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雨の音が、

記憶に似ている。

誰かに言ったことがある気がするけれど、
誰だったか思い出せない。

消印のない封筒が届いたのは、

十一月の最後の週のことだった。

白い封筒。宛名は私の名前。

差出人の欄は——空白。

「まだ、そこにいますか」

それだけだった。

三年前、私はある人に手紙を書いた。

何度も書いて、何度も破った。

最終的に出来上がった文章を封筒に入れて、

机の引き出しの奥に仕舞った。

「もう会えなくなる前に、
一度だけ言いたいことがある」

送らなかった。

その夜、雨が降った。

私は返事を書こうとした。

何度も書いて、何度も丸めた。

最終的に、白紙の便箋を封筒に入れた。

後記

雨の音が記憶に似ているのは、

どちらも「止んだ後でしか、

降っていたことに気づかない」

からだと思う。

— 了 —