すっかり秋めいてきて、夜は読書や勉強がはかどる季節になりました。 一度学んだことでも、時間を置いてもう一度触れたり、さらに深く掘り下げたりすると、「そういうことだったのか!」と新しい発見があることがあっていいですね。

さて、先週は「ブルーオーシャン戦略」の基礎について整理してみました。 競争のない市場をいかに見つけるか、という話。

https://note.com/p3_vp/n/n8c7ff029e799

今週は、その続きをさらに読み進みたいと思います。 「市場を見つけるよりも、どう『創り出す』か」、 そして 「素晴らしい戦略をどう『実行』するか」 という、 基礎から一歩踏み込んだより実践的なテーマです。

今日は、なぜ多くの企業が新しい一歩を踏み出せないのか、そして、新たな市場(ブルーオーシャン)のヒントはどこに隠されているのか、少し整理し、誰かの力になれましたら幸いです。

「パイオニア」か「安住者」か?

ブルーオーシャン戦略では、企業の事業ポートフォリオを 「PMSマップ」 という考え方で整理しています。

パイオニア (Pioneer): ブルーオーシャンを切り開く事業。顧客にかつてない大きな価値を提供し、利益ある成長の源泉となります。

安住者 (Settler): 業界の標準的な価値提供にとどまる事業。 いわゆる「二番煎じ」で、レッド・オーシャンでの消耗戦に陥りがちです。が収益を伴う重要な事業です。

移行者 (Migrator): 上記の中間。価値を押し上げはしますが、バリュー・イノベーション(価値の飛躍)には至らない状態です。

多くの企業は、「安住者」の事業で溢れかえっています。 それなりに収益はあっても、競合他社の模倣や価格競争に巻きこまれ、ジリ貧になっているケースも多いと本著に書かれていました。

サムスンが事例としてケーススタディされていました。 1990年代後半のアジア経済危機で岐路に立たされており 「どんぐりの背比べ」から抜け出すため、差別化と低コストを両立する「バリュー・イノベーション」が不可欠だと感じていたのです。

そこで彼らは「バリュー・イノベーション・プログラム(VIP)センター」を設立し、戦略キャンバス(競争要因を可視化するフレームワーク)を徹底的に活用する仕組みを取り入れました。 「我々はパイオニアになるんだ」 という強い意志を持って、組織の仕組みから変えていったのです。

宝の山は「お客様ではない人」が知っている(非顧客層)

では、どうすれば「パイオニア」になれるのか? ここで、ブルーオーシャン戦略の非常に重要な原則が登場します。 それは 「新たな需要を掘り起こす」 ことです。

多くの企業は、既存顧客にもっと満足してもらうため、顧客を細かく分類(セグメンテーション)し、顧客間の「違い」 に焦点を当てます。

ブルーオーシャン戦略しかし、これはレッド・オーシャン(血みどろの競争)の発想です。

ブルー・オーシャン戦略は、逆の道を選びます。 「顧客以外の層(非顧客層)」 に視線を向け、買い手が「共通」して重んじる要素に焦点を当てるのです。

ブルーオーシャン戦略つまり既存の市場のパイを奪い合うのではなく、「脱セグメンテーション」によって、これまで市場にいなかった人たちを取り込み、市場そのものを創造する。 これがブルー・オーシャン戦略の基本的な考え方です。

🚀 ケーススタディ

「非顧客層」と言われてもピンとこないかもしれません。 しかし、彼らは大きく3つのグループに分けられ、そこには膨大なビジネスチャンスが眠っています。ここが個人的には一番面白いところでした。

  1. キャロウェイ:「ゴルフは難しい」という諦めを解消

ゴルフクラブの 「ビッグバーサ」 は、まさにこの「非顧客層」に着目して大ヒットしました。

当時のメーカーは、プロや上級者(既存顧客)向けに、いかに高性能なクラブを作るかに注力していました。しかしキャロウェイは、顧客以外の層に目を向けました。

「ゴルフは難しすぎる」と諦めていた人

「ボールに当てるのが難しい」からテニスなど別のスポーツを選んだ人

彼らの 「共通の不満」 は、「もっと簡単にボールに当てたい」ことでした。 そこで、ヘッドを常識外れに大きくした「ビッグバーサ」を開発。 これにより、ゴルフのハードルが下がり、初心者が市場に参入しただけでなく、スコアに伸び悩んでいた既存の愛好家までをも虜にしたのです。

  1. プレタ・マンジェ:「第1の非顧客層」を掴む

「第1の非顧客層」 とは、市場の縁にいる人々。必要があれば最小限は利用するものの、もっと良いものがあればすぐに乗り換えたいと考えている層です。

イギリスのファストフードチェーン「プレタ・マンジェ」は、この層を取り込みました。 当時のロンドンで働くプロフェッショナルたちは、昼食に不満を持っていました。

レストラン:美味しいが、時間がかかりすぎる。

ファストフード:早いが、ヘルシーではない。

彼らの 「共通のニーズ」 は、「手早く、新鮮でヘルシーなものを、手頃な価格で食べたい」でした。 プレタ・マンジェは、レストラン品質の新鮮なサンドイッチを、ファストフード並みのスピード(平均90秒!)で提供。 この「第1の非顧客層」の膨大な需要を解き放ち、革命を起こしました。

  1. ジェーシードゥコー:「第2の非顧客層」を逆転させる

「第2の非顧客層」 とは、業界の製品やサービスを「あえて利用しない」と拒否している人々です。

フランスの屋外広告会社「ジェーシードゥコー」は、この層に目をつけました。 当時、屋外広告は「効果が一時的」「費用がかかりすぎる」と、多くの企業(非顧客層)から見向きもされませんでした。

彼らは、なぜ広告主が拒否するのか、その 「共通の理由」 を探りました。 それは「人々が長くとどまる場所に広告がない」からだと気づきます。 そこで、自治体に対して「バス停やベンチなどの“ストリートファニチャー”を無償で設置・維持管理します。その代わり、そこに広告を掲示させてください」と提案しました。

これにより、

自治体:コストゼロで街がきれいになる

広告主:バスを待つ人の目に長時間触れる(広告効果UP)

ジェーシードゥコー:市の中心部の一等地を独占契約できる

全員がWin-Winになる、まったく新しい市場(ブルー・オーシャン)を創造したのです。

  1. 業界の常識を疑う:「第3の非顧客層」

そして最もイノベーティブなのが 「第3の非顧客層」 です。 これは、既存顧客とは最もかけ離れている層を指します。

彼らは通常、業界から見過ごされ、ターゲットとすらみなされてきませんでした。 なぜなら、彼らのニーズは「別の市場(業界)」が満たすものだという「常識」があったからです。

「歯のホワイトニング」 の事例。 従来の常識:「歯を白くする」サービスは、「歯科医」の専売特許とされていました。 業界の目線 : 「オーラルケア製品メーカー」(歯磨き粉など)は、それは自分たちの市場とは無縁だと考えていました。

ブルーオーシャン:しかし、メーカーがこの「第3の非顧客層(歯科医には行かないが、歯は白くしたい層)」に目を向けた結果、「良質で安全な」自宅用ホワイトニング製品という巨大な潜在需要(ブルー・オーシャン)が発見されたのです。

最大の敵は競合ではなく「社内」にあり

素晴らしい戦略を描けても、実行できなければ絵に描いた餅です。 そして、ブルー・オーシャン戦略のような大きな変革を実行しようとするとき、最大の壁は競合他社ではなく、「社内の抵抗」 だったりします。

本書では、変革を阻む4つのハードルが紹介されていました。

意識のハードル:「なぜ変革が必要なのか?」と従業員が目覚めない。

経営資源のハードル:変革には金がかかると、資源を減らされる。

士気(モチベーション)のハードル:現状維持を望む人々が動かない。

政治のハードル:既得権益を持つ人々(大敵)からの抵抗。

こうしたハードルを超えるリーダーシップを 「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」 と呼びます。彼らは、数字(データ)で説得しようとはしません。

例えば「意識のハードル」を超えるために、ニューヨーク市地下鉄のトップは、幹部たちを「動く下水道」と揶揄された悲惨な現場(地下鉄)に連れ出し、「厳しい現実を直視」 させました。 数字を見せられるより、その強烈な体験が「このままではマズイ」という意識変革を一気に促したのです。

また、変革の実行には 「公正なプロセス」 が不可欠です。 戦略をトップダウンで押し付けると、現場は「どうせオレたちの意見なんて聞いてもらえない」と憤り、妨害行為(サボタージュ)にすら及びかねません。

戦略立案の段階から現場の意見に耳を傾け、彼らの「知性」と「感性」を尊重する。 そうして初めて、従業員の「信頼」や「自発的な協力」という 「無形資本」 が蓄積され、組織は一枚岩となってブルー・オーシャンへ漕ぎ出せるのです。

👋 おわりに:小さな「違和感」からイノベーションは始まる

今週は「ブルーオーシャン戦略」の深掘りとして、「非顧客層」という新しい視点と、「実行のハードル」という現実的な課題をテーマに取り上げました。

サムスンのような大企業でなくても、ヒントは身近にあります。

お客様が「当たり前」と諦めている不満

あなたの業界を利用しない人が「共通して」口にする理由

そうした小さな「違和感」 こそが、新しい価値(バリュー・イノベーション)のタネであり、あなたの会社を「安住者」から「パイオニア」へと変えるきっかけになるようです。

既存の競争に少し疲れているなら、視点を変えて「お客様ではない人」の声に耳を傾けてみる。それが、ビジネスを豊かにする、最も確実な一歩になるかもしれません。

この記事が、皆さんの参考になれば幸いです。