皆さんの会社では、こんな光景はありませんか?

企画部門が時間をかけて、 それは完璧なロジックで「中期経営計画」を作ってくる。

しかし、現場から見れば「そんなの現場の実態とかけ離れている」と現場は白ける。

そして、あろうことかしまいにはカリスマ社長の一声ですべてがひっくり返っていく。

結局、何が起きたのだろうか?

同じ会社の未来について話しているはずなのに、なぜこれほどまでに議論が噛み合わないのでしょうか。 その答えを解き明かす鍵が、ヘンリー・ミンツバーグの名著『戦略サファリ』にあります。

今日は、「構造的理解」 を行う上で羅針盤となっているこの有名な理論についてお話しします。

  1. 私たちは「象」のどこを触っているか?

『戦略サファリ』の冒頭には、有名な寓話 「群盲、象を評す(Blind men and an elephant)」 が登場します。

6人の目の見えない男たちが、象という未知の動物に触れて、それが何かを議論します。

お腹を触った人:「これは壁だ」

牙を触った人:「いや、これは槍だ」

鼻を触った人:「違う、これはヘビだ」

膝を触った人:「きっと、像とは木のようなものだろう」

耳を触った人:「像とは、うちわみたいなものだ」

尻尾を触った人:「像とは縄である」

全員が自分の手触り(部分的な真実)を主張していますが、 誰も「象の全体像」を捉えられていません。

ビジネスの現場もこれと同じです。

企画部はデータを分析し、戦略を「計画(プラン)」だと捉える。

社長は直感を信じ、戦略を「ビジョン」だと捉える。

現場は日々の改善こそが、戦略(パターン)だと捉える。

どれも間違っていません。しかし、どれか一つだけでは「全体構造」 を見誤ります。この 「部分最適の罠」 に気づくことこそが、リーダーとして経営者としてとても重要になります。

  1. 戦略の「10の学派」について

ミンツバーグは、世の中に無数にある戦略論を10個の「スクール(学派)」に分類しました。これを知っているだけで、「あ、今この人は〇〇学派の視点で話しているな」と会議を俯瞰できるようになります。

大きくは以下の3つに分かれます。

① 「こうすべきだ」と考えるグループ(処方的アプローチ)

MBAの教科書によくよく出てくるスタイルです。

デザイン・スクール(適合派): SWOT分析などで、自社の強みと環境を適合させる、最も基本的な型。

プランニング・スクール(計画派): 手順、チェックリスト、予算など、緻密なプロセスと数値を重視する。

ポジショニング・スクール(配置派): ポーターの競争戦略など、市場のどこに位置取れば勝てるかという分析を重視する。

これらは「頭(ロジック)」で作る、事前の戦略です。

② 「実際はどうなっているか」を見るグループ(記述的アプローチ)

戦略が作られるプロセスや、人間臭いリアリティを重視するスタイルです。「現場」から生まれる事後の戦略とも言えます。

アントレプレナー・スクール(起業家派): 強力なリーダーの「直感」や「ビジョン」こそが戦略であるとする。

コグニティブ・スクール(認識派): 戦略家の「頭の中(心理)」に注目し、情報の捉え方やバイアスを分析する。

ラーニング・スクール(学習派): 最初から正解はない。現場での試行錯誤と学習から戦略は創発されるとする。

パワー・スクール(権力派): 戦略形成は、社内の政治的駆け引きや、他社との交渉のプロセスであるとする。

カルチャー・スクール(文化派): 組織の「風土」や「共有された信念」が戦略を規定すると考える。

エンバイロメント・スクール(環境派): 企業は環境に対して受動的であり、環境変化への適応こそが戦略であるとする。

これらは「現場(リアリティ)」から生まれる、事後の戦略です。

③ 統合するグループ

コンフィギュレーション・スクール(変革派): 上記の学派を企業のライフサイクルや文脈に合わせて組み合わせ、変革を行う。

  1. 「レッドオーシャン」を避けるためのバランス感覚

では、現場でがんばる私たちはどちらを選べばいいのでしょうか? 結論から言えば、やはり「どちらか一方に偏ると死ぬ」 ということです。

私自身が、日々の業務で痛感していることがありますが、 まず「ポジショニング」などの事前の計画は絶対に必要です。

これがないと、自分たちがどこで戦うべきかの地図がありません。 結果的に、現場の意見を重視して、そして「レッドオーシャン(血みどろの競争市場)」に頭から突っ込んでいくことになります。

しかし、計画を作った後の実践フェーズでは、「実際にはどうなっているか?」という現場の本当に複雑な変数が絡み合ってきます。

ここで計画に固執しすぎると、現実に適応できずに破綻するでしょう。

かといって逆に、「現場のリアリティ(実際どうなっているか)」だけを極めていけばいいのか? これもまた危険です。時間もかかります。現場の成り行きだけに任せて「計画」を手放してしまうと、気づけば方向性を失い、上に書いたようにやはりまたレッドオーシャンに迷い込むことになります。

つまり、

計画なき実践は、無謀な特攻である。

実践なき計画は、机上の空論である。

ということですね。

大事なのは、この行ったり来たりするバランス感覚です。

まとめ:全体を俯瞰する「ビルダー」であれ

私たちはつい、自分の得意な領域(象の足や鼻)だけで議論しがちです。 しかし、これからのリーダーに求められるのは、「全体構造を俯瞰する知性」 です。

「あの人の意見は間違っている」と切り捨てるのではなく(自分もそうしていましたが・・)、「彼は今、象の尻尾(現場のリアリティ)を触っているんだな。では、頭(計画)を触っている私の意見とどう統合すれば、象全体が前に進むだろうか?」と考えてみてください。

そうすれば、無用な対立を避け、チームと共に「平和で強固な王国」 を築いていけるはずです。 今週も、会社はサファリパークだと思いながら楽んで、よい仕事を積み上げていきましょう。