ここ数十年、日本のものづくり企業は「レッドオーシャン」から 抜け出せず、グローバル市場でコテンパン にやられてきた印象があります。
「欧米のようなスマートな戦略がないから」「マーケティングが弱いから」と、何度も反省を迫られてきました。
しかし、私たち日本企業が昔から得意とし、世界からも一目置かれている戦略論があります。タイトルにもある「現場(Gemba)に重きを置いた戦略論」です。
今日は、ヘンリー・ミンツバーグの名著『戦略サファリ』の後半部分 についてお話します。前半の 「綺麗な計画」の戦略論 とは打って変わり、後半はまさに、日々実践の泥臭い戦い方について学ぶことが出来ます。
前回までの記事:
https://note.com/p3_vp/n/n45859a821102
https://note.com/p3_vp/n/n9071ff98b421
この記事では現場重視の3つの学派についてご紹介します。
1. パワー・スクール(権力学派):「根回し」という技術
少し規模の大きい組織、あるいは企業で勤めたことのある方なら、何かを決めるときの 「関所」 のあまりの多さに溜息をついたことがあるでしょう。本当の本当にうんざりするしかありませんよね。
「もっとバシッと決まればいいのに」と思うこともあります。 しかし、『戦略サファリ』の 「パワー・スクール(権力学派)」 の視点で見ると、この日本的な「合意形成」のプロセスは、実は強力な武器になります。
この学派は 「戦略形成 = 交渉と説得のプロセス」として考えます。 つまり綺麗な企画書を作るのではなく、キーマンに事前に説明し、反対勢力の顔を立て、現場が納得する形に落とし込む……いわゆる日本企業で働く皆さんが日々苦労している「根回し」 です。
「関所」を一つひとつ攻略し、組織全体の納得感を醸成するからこそ、一度決まった後の現場の実行力は凄まじいものになります。この「組織を動かす政治力」こそ、日本企業が持つ底力の一つです。
確かに、言われてみれば、ややこしいステップのあとの実行力はとても勢いがあるような気がしますね。
2.ラーニング・スクール(学習学派):走りながら考える
「最初から完璧な計画を作れ」と言う上司はいますが、激変する現代においてそれは不可能です。もしくは不可能に近いです。
この学派の代表例としてよく語られるのが、かつてのアメリカ市場における本田技研(ホンダ)の成功事例です。 当初の「大型バイクを売る」という計画が失敗し、現地社員が足代わりに乗り回していた「スーパーカブ」が偶然に注目されたことで、急遽方針転換して大成功した事例です。
以前に記事にしたことがありました:
https://note.com/p3_vp/n/nb62042bc150b
まさに 「やってみたらこうなった。上手くいった(創発的戦略)」 です。
実際にプロジェクトのはじめに作った計画は、修正に修正が加えられて、計画完成となるのはプロジェクトの後半で、というのはよくありますよね。でもそれで学習して前に進んでいるからいいんです。
この「現場の学習能力」こそが、不確実な時代において強みになるのではないでしょうか。カイゼンや現場力といった言葉で大切にしてきたものは、実は立派な戦略論だったのです。
3.エンバイロメンタル・スクール(環境学派):環境が戦略を決める
この学派の主張はシンプルです。「企業は環境に適応しなければ生き残れない」。主役はリーダーではなく、環境です。
日本の閉じた環境 「ガラパゴス市場」 はどこが悪だったのでしょうか?
それは国内の厳しい要求だけに応えすぎた結果、独自の進化を遂げ、世界の標準規格 から外れてしまった。その結果、海外で売れない製品になってしまったという点にあります。
しかし失敗したのは、「閉じた国内市場」に 過度に適応してしまった という「場所(環境)の選び方」であって、日本企業の高い 「適応する能力」そのもの ではありません。
世界一品質にうるさい顧客、細かすぎる要求仕様。これらに対応しきった現場の「擦り合わせ技術(インテグラル)」は、依然として世界最高水準です。過去のガラパゴスの反省を活かし、「どこに適応するか」という戦略さえ間違えなければ、日本の企業は再び世界で戦えるはずです。
■本日のまとめ
日々社内調整に追われる。計画は毎週修正し、独自環境でもがく
そんなスマートじゃない私たち日本企業での日々の取り組みも、実は立派な戦略の一つでした。
ミンツバーグの『戦略サファリ』が教えてくれるのは、その泥臭いプロセスこそが、実は最も理にかなった「戦略」であるという事実です。
戦略というのは、MBAで学ぶような綺麗な机上の計算のようなものだけではないということです。少し励みになりますよね。
さあ、明日からの月曜日。今週も、サファリパークで元気に頑張りましょう。