大量生産して、コストを下げれば勝てた日本の過去の栄光。

かつて、日本の製造業が世界を席巻した時代、戦略はシンプルでした。 大事なのは「現場の改善」「勤勉さ」です。現場の「暗黙知」という概念も生まれました。戦略なんて小難しいことを言わずに、とにかく現場が手を動かせ! そんな昭和的な熱意や同調圧力が、確かにかつての日本を支えていたでしょう。

しかし、2026年の今 「現場がどれだけ残業して、働いて働いて働いて血の滲むような努力をして改善しても、勝てない戦いがある」ということに皆さん気づいています。

なぜ、日本の大企業は沈んでいったのか? その答えは、ミンツバーグの戦略サファリに出てくる「基本の3つの戦略」をおろそかにしたことにあると考えます。

今日は、私たちがもう一度学び直すべき、「現場の努力を無駄にしないための戦略」についてお話しします。

欧米が武器にした「頭脳」としての3つのスクール

ミンツバーグ『戦略サファリ』では、戦略を「あらかじめ計画するもの」と捉える3つの学派を紹介しています。

※他の学派の概要は以下の記事で紹介しています:

https://note.com/p3_vp/n/n45859a821102

欧米企業が得意として、逆に昭和の日本企業が「机上の空論」と敬遠しがちだったものです。

  1. デザイン・スクール

キーワード: SWOT分析、最高経営責任者(CEO)、戦略的適合

本質: 「我々は何者か?」を定義する、最初にして最大のプロセス。

この学派の最大の特徴は、「CEOこそが建築家(アーキテクト)である」と言い切る点です。 外部環境(機会・脅威)と内部環境(強み・弱み)を突き合わせ、パズルのピースがカチッとはまるような「戦略的適合(Strategic Fit)」を見つけ出す。これは現場の合議制やボトムアップでは決して生まれません。

【日本の弱点】 日本企業は「調整」は得意ですが、「決断」が苦手ですよね。「みんなで話し合って決める」と、どうしても角が取れた無難な折衷案になります。 欧米の強さは、トップが孤独に思考し、「我々のコンセプトはこれだ!」というグランドデザイン(全体構想)を最初に(最後の最後の最後ではありません)最初にバシッと打ち出す点にあります。これがないまま現場を走らせるのは、設計図なしで家を建てるようなものです。

  1. プランニング・スクール(計画派)

キーワード: イゴール・アンゾフ、予算策定、マニュアル化、形式知

本質: 「個人の職人芸」を「組織のシステム」に変換する技術。

デザイン・スクールで描かれた構想を、具体的な数値、手順、チェックリストに分解し、「誰がやっても実行できる状態」にするのがこの学派です。 欧米企業がグローバルで急速に拡大(スケール)できる秘密はここにあります。彼らは戦略を徹底的にマニュアル化(形式知化)し、買収した海外企業や新入社員でも即座に動ける「仕組み」を作りました。

【日本の弱点】 対して日本は、「暗黙知(背中を見て覚えろ)」を美徳としすぎました。 「阿吽の呼吸」は熟練チームでは最強ですが、グローバル展開や人材の流動性が高い環境では機能しません。 「現場の機転」に頼りきり、本社が緻密なプログラム(作戦計画)をサボった結果、海外市場で現地のマネジメントができずに敗退した事例は枚挙にいとまがありません。

  1. ポジショニング・スクール(配置派)

キーワード: マイケル・ポーター、ファイブフォース分析、競争優位

本質: 「戦わずして勝つ」場所を、計算によって導き出す。

これはミンツバーグが「分析的すぎる」と批判した学派でもありますが、同時に現代ビジネスで最も強力な武器でもあります。 市場構造を冷徹に分析し、「コストリーダーシップ(安さで勝つ)」か「差別化(独自性で勝つ)」かを明確にします。「どこ(Where)」にポジションを取れば、構造的に利益が出るかを数学的に計算するのです。

【日本の弱点】 日本のメーカーが最も苦手としたのがこれです。 「高品質なら売れるはずだ」と信じ込み、「ど真ん中のレッドオーシャン」に全員で突っ込んでいきました。 欧米企業が「この市場は利益が出ないから撤退する」「このニッチな高収益エリアだけ取る」と「やらないこと*を決める中、日本企業は「全方位外交」で消耗戦を挑み、利益率を削り続けてしまったのです。

この3つをセットにすると、「なぜ日本が負けたか」が浮き彫りになります。

コンセプトがない(Design不足)

仕組み化できていない(Planning不足)

儲かる場所を選んでいない(Positioning不足)

「現場主義」という名の思考停止

私たち日本人は、これらの「頭で考える戦略」よりも、「現場で汗をかくこと」を美徳としてきました。

もちろん、現場は宝です。カイゼン活動や、あうんの呼吸で進むチームワークは、世界に誇る日本の強み(Japan as No.1の源泉)でした。 しかし、「現場力」は「戦略」の代わりにはなりません。

例えば、テレビ事業です。 欧米や中韓の企業が「ポジショニング・スクール」の考え方で、 「この市場はもう利益が出ないから撤退しよう」 「我々はプラットフォーム(OS)だけを握ろう」 と冷徹に計算している横で、日本企業はどうしたでしょうか?

「もっと高画質なものを作れば売れるはずだ」「夜遅くまで残業して、みんなで頑張ればなんとかなる」

そうやって、「戦略の不在」を「現場の過剰労働(精神論)」でカバーしようとしたのではないでしょうか。

ポジショニング(戦う場所)を間違えているのに、現場の改善(走り方)だけで勝とうとする。 それは、「崖に向かって全力疾走している」のと同じです。このころ、崖に向かって全力疾走するしか頭にない人たちで日本の会社はあふれかえっていました。なぜ?がなく、同調圧力で10時まで会社にいるのが基本。そんな時代もありました。

どんなに現場が優秀でも、地図(戦略)が間違っていたら、私たちは遭難してしまうというとても痛みの伴う大きな教訓です。

■ 教訓:経営者が「経営学」を学ばない国に、未来はない

結局のところ、最大の問題点はここに尽きます。 「日本の経営者が、経営学を学んでこなかった」という事実です。

多くの日本企業では、現場で成果を出した人が、そのまま階段を登って経営者になります。 現場のことは詳しい。しかし、「戦略」や「ファイナンス」、「組織論」といった経営の定石(セオリー)を体系的に学んだことがないまま、巨大な組織の操縦席に座っているのです。

無免許のパイロットが、気合と根性だけでジャンボジェットを飛ばそうとしている。 これでは、論理と戦略で武装したグローバル企業に勝てるはずがありません。

このまま「思考停止」を続ければ、日本は戦略的に取り残され続け、次の世代に「負け戦」を引き継ぐことになります。 それはもはや、日本沈没に繋がると言っても過言ではないでしょう。

この負の連鎖に歯止めをかけるのは、過去の成功体験にしがみつく人たちではありません。 学びの中にしか、救いはないのではないでしょうか。

体系的な知を身につけ、構造を理解し、正しい戦略を描くこと。 それだけが、理理不尽な精神論から現場の仲間を守り、私たちの社会を再び浮上させる唯一の手段だと信じています。

それでは、今週も、会社はサファリパークだと思いながら楽んで、よい仕事を積み上げていきましょう。